ブナの木


 初めて覚えたのはブナだったと思う。

 それは湖に程近い個人所有の雑木林の中にあった。
車を降りて林内に入っていくと、先導していた教師が僕らを振り返り言った。
 「これがビーチです」

 その季節には珍しく、青く澄みわたった空の中に吸い込まれるように、直立した大木が数本群生していた。ちょうど紅葉の時期で鮮やかな黄色が青空に良く映えていた。


 翌年の晩秋のこと、日本に帰った僕は、岐阜の山奥で再びブナに遭遇した。標高1300メートル。森林限界近くの笹原の中にそれはあった。こちらは、幹周りの大きさからか、どっしりとした印象。
 「日本にもこんなすごい樹があるんだ」

 まもなく『地拵え(じごしらえ)』に入る現場の下見に同行した僕に、親方が言った。
 「耳を当ててみい。水の流れる音がせるでよ」
苔生した幹に抱きつき耳を傾けたものの、小川のせせらぎに邪魔をされ、親方には生返事しか出来なかったが、もう一度、離れたところからその巨木をしばし鑑賞。

 
 樹の名前を意識したとき、僕はこれらの光景とその当時にお世話になった人々を思い出す。


 だから
  「お客様。 この木はすごくいい樹なので大切に使ってくださいね。」
                              という気持ちで送り出す。


                                          by 夜間飛行
 
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by holzmarkt | 2007-09-05 11:15
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